ダイヤモンドについて

何故婚約指輪が出来たのか④

何故婚約指輪が出来たのか④

「ダイヤモンドは必需品なのだ」という考え方を新しく作り出した
ダイヤモンドのマーケティングについて、
私が読んだ本にとても興味深い内容があったので
一部抜粋してまとめたものをご紹介させて頂きます。
前回に引き続き、全6回中の第4回目をご紹介させて頂きます。

―指先を飾るもの―

第二次世界大戦による戦時経済、また世界恐慌を迎え、人々はダイヤモンドを買わなくなった。
需要不足に供給過多が結びつきダイヤモンドの価格の急落を招くことは必至であった。

ダイヤモンドがどこにでもある半貴石にならないようにするために、デビアスは需要を管理するために価格設定と供給を人為的に操作したのである。人間の心理と財布を支配したというわけだ。
そしてさらに人間の情緒をも支配する必要があった。

ダイヤモンドは女性の最良の友なのだ。
少なくとも平均的な大人にとって、ダイヤモンドの指輪は必需品と考えられる唯一の宝石だ。
個人的な感情がついてまわる、ロマンチックな、そして一生涯愛着を感じ続けると思われている宝石はダイヤモンドだけだ。
ダイヤモンドの指輪は誰でも必ず買う、また受け取ると考えられている。大人になったらいつかティアラを持つなんて誰も真剣に考えたりはしないが、婚約指輪は違う。成功した大人の人生を象徴する表現がそこには強烈に盛り込まれているのだ。

これこそが、あなたのために作り出された思想なのだ。
注意深く、意識的に練り上げられ、何十年もかけて洗練されたマーケティング戦略なのである。
心理テスト、消費者研究、若年層への刷り込み、製品配置、80年にもわたって続けられた広報活動などを利用して、綿密に練り上げられた戦略だ。これがタバコなどの広告のひな型となり、世界経済を完全に作り変えたのだった。
需要と供給を操作するような安手のやり方ではなく、消費者自身を操るという方法だったのだ。

どうやってそんなことができるのだろうか。デビアスはまず前倒しから取り掛かったのだ。1477年18歳の大公マクシミリアン(後の神聖ローマ帝国皇帝)は、史上初のファセット面を付けたダイヤモンドの婚約指輪を贈って、愛するマリー・ド・ブルゴーニュに結婚を申し込んだのだ。
このカップルが、ダイヤモンドの婚約指輪という、530年間も続いてきた、気の遠くなるような伝統を作ったのだ。
約束の言葉、ダイヤモンドの輝き、そしてキスへと続く一連の伝統だ。ため息・・・とにかくこれがデビアスの筋書きだ。

1946年、デビアスは消費者調査を行った、その結果として新しい中間層は確かに使うお金を持っていた。
しかし、彼らはその金を使ってダイヤモンドや指輪などを買うことに全く乗り気ではなかったのだ。

ダイヤモンドの婚約指輪は、デビアスと広告代理店N・W・エイヤー社による発明だ。それは全くこれまでにないタイプの初めての製品だった。感情の面から人々に訴えてダイヤモンドを買わせるのだ。ダイヤモンドは必需品なのだという考え方を新しく作り出した。

では、具体的にデビアスは何をどうしたのか。
まず、商品にまつわるストーリーを発明、あるいは少なくとも話を肉感的に歪めて作った。
まず、マクシミリアンとマリーの間で最初のダイヤモンドの婚約指輪が交わされた物語が採用された。この「最初のダイヤモンドの婚約指輪」の物語は、偉大な歴史の文脈とも相まって、まさしくロマンチックな語調を生み出した。
デビアスはすでに希少性を高めるための手は打っていた。つまりダイヤモンドは数少ないもの、貴重なものであるという認識を行き渡らせてあった。あとは、消費者の情緒を操作するだけであった。

引用・参考文献
エイジャー・レイデン、2017年、「宝石 欲望と錯覚の世界史」、築地書館

今では当たり前の様に「婚約指輪にはダイヤモンド」となっています
しかし、マーケティング戦略のもと作られた文化となっていたんですね。
無くても良いものを「必需品」とまでしてしまう影響力はとても大きいですね。

次回は引き続き婚約指輪について
「婚約指輪という神話」です。